”サイコネフロロジー”という言葉を聞いたことがありますか?
”サイコネフロロジー(精神腎臓病学)”を透析患者に限定していうと、
透析患者は、食事制限や水分管理、定期的な通院など、より多くのストレスを抱えながら生きています。
そんな多くのストレスに対応していかなければならない透析患者の心理を理解し、対応していく学問のようです。
また、サイコネフロロジーには、気難しい透析患者の対応にストレスを感じている透析スタッフの心のケアも含まれます。
残念ながら、まだサイコネフロロジーの概念は、あまり浸透していないようです。
透析スタッフがサイコネフロロジーの概念を理解していたら、少しは透析が楽になるかもしれないし、何かトラブルが起きた時に、適切なアドバイスをもらえるかもしれませんね。
目次
サイコネフロロジー(Psychonephrology)とは?
サイコ(Psycho):精神・心理
ネフロロジー(Nephrology):腎臓(病)学
サイコネフロロジー(Psychonephrology)→腎臓病精神学
慢性腎臓病患者(特に透析患者)は、心にたくさんの不安や悩みを抱えていることが多く、
それに対応していくのがサイコネフロロジーです。
サイコネフロロジーは、慢性腎臓病患者の「こころ」を扱う学問
透析は、継続しないと生きられない治療であり、抑うつなどを伴いやすく、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病による壊疽と下肢切断など深刻な合併症も多い。
そうした患者の心理面のケアをいかに行うかの学問
サイコネフロロジーで扱う領域は?(透析の場合)
①透析患者の精神的ケア
②透析に関わるスタッフのメンタルヘルス
③慢性腎臓病患者の透析に関わる意思決定支援
④非がん患者の緩和ケア
⑤精神疾患や精神症状をもつ透析患者の診療など
サイコネフロロジーを患者はどのように取り入れたらいいの?
<6:06~>
サイコネフロロジーは非常に重要な領域だが、扱える医療者が全国的にも非常に少ない
透析患者は20%くらいが抑うつ状態というデータがあるが、
どれくらいの患者に、どのような支援が必要なのかという
診療ガイドを今作成中
まずは、医療者にサイコネフロロジーのことを知ってもらって、広くケア出来る人材を育てていこうというのが今の現状
≫「腎臓病と心」を扱うサイコネフロロジーってどんな学問?専門家に聞きました
透析患者の精神・心理と透析スタッフが出来る必要な援助
透析患者のストレスにはどんなものがある?
①食事・水分制限が必要
②決められた日時に透析を受けなければならないという日常生活・社会生活の制限
③くり返される透析による拘束感
④身体的体力の低下,腎不全由来の合併症が出現しやすい
⑤生命予後に対する不安,死への不安
⑥配偶者や家族の高齢化,死による孤独感
などがあり、これらの要素は心理的な問題の原因となります。
透析患者に現れる精神医学的問題
透析患者にはさまざまな精神医学的な問題が現れます。
①水分管理が悪い
②透析拒否
③食欲がない
④眠れないなど
透析患者の精神医学的問題
①抑うつ(24%)
②不安(13%)
③家族との関係(11%)
④器質障害に起因するものが 20%
⑤合併症に起因するものが 14%
⑥性格によるものが9%,
⑦その他 9%
≫透析患者とうつ病
日本サイコネフロロジー研究会会長/東京女子医科大学医学部神経精神科教授 西村 勝治
長期透析患者の心理
①「ほどよさ」 | ある程度の節度でコントロールできるという心理 |
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②感謝 | 透析のおかげで長期に生きてこられたことに感謝する心理を有している |
③芯の強さ,頑固・強情な心理 | 長年の経験から,簡単には自説や主張を曲げないという面もある |
④不安 | 死についての根源的な隠された不安 つねにどのくらいまで生きられるか?いつ死ぬか? |
⑤希望がほしい | 希望をもちたいという心理も強く有している |
透析スタッフの心理的援助のありかた
1.患者が心を開いて自由に話し合える人間関係づくり
2.患者の訴え,語りをよく聴くことから始まる
(内面のことまで話せるようなコミュニケーション)
3.患者の心の不安や葛藤の言語化を促す
4.心理的抵抗には充分配慮し決して強要しない
5.気づき,リフレーミング(物事の視点や枠組みを組み直すことで、問題や悩みをポジティブに変える方法)の援助
6.続けてきた療養人生の中で頑張ってきたことなど
肯定的な面に焦点を当てて評価する
7.家族の間での心理的問題の調整と援助
8. 小さいことでも,生活の中で楽しみや喜びを見つける工夫の援助
9.リラクセーション法をすすめてみる
≫透析患者の精神・心理
患者とのコミュニケーションの重要性
透析室スタッフと患者のコミュニケーションで期待できる効果
①信頼関係の形成
②患者の苦悩や混乱の鎮静化につながる
③患者の自己理解や気付きを導き、食事や水分管理など自己管理が出来るようになる
①患者が「ここでは話を聴いてもらえる」「この人には自分のことが分かってもらえる」といった実感を持つことにより,信頼関係の基礎を作ることが出来る。
②患者が、主訴や問題に苦しんでいる場合には,透析スタッフとの会話によって自分の苦悩を表出することができ,次第に混乱が収まり落ち着きを取り戻すことが期待できる。
③日常の中では十分に考えたり,立ち止まって考えたりできなかった問題や,自分のありかたについて,透析スタッフと話をすることで、少しずつ探求していけるようになる。
自己探求が深まると,自己理解がはじまり「〜に気が付いた」「〜したいという気持ちが出てきた」「〜を認めようと思う」というような気付きが生まれてくる.
まとめ
透析患者とのコミュニケーションが希薄だと、透析患者が何を考えているか、どんな問題を抱えているかを知ることは出来ません。
透析患者と透析スタッフが良いコミュニケーションが出来るのは理想ですけど、
現実は、スタッフは日々の業務をこなすのに精いっぱいといった感じに見えます。
体重を増やし過ぎて、血圧が下がったり足がつったりしたら、スタッフの仕事も増えるけど、患者の話や悩みをよく聞くことで、自己管理が出来るようになれば、安全な透析が出来、スタッフの仕事もスムーズにいくのではないでしょうか?
透析にかかわる全てのスタッフが、サイコネフロロジーの概念を知り、透析患者の背後にある苦悩に寄り添ってくれるといいですね。
透析患者がどんな思いで治療を受け、どんなことを考え、どんな苦しみや悩みを抱えているのかを知ろうとする姿勢を持っていただいたら、患者とスタッフがより良い関係が築けるのではないでしょうか。