超長期透析患者(透析歴40年以上)が抱える身体的リスクと実態調査
今は、透析医療も発達して長期に透析をしている人も多くなりました。
でも、人工腎臓は、人間本来の腎臓とは異なり、完全に腎臓の替わりとはなりえません。
透析で長期に生き延びた場合、それだけ体もボロボロになり、痛みや苦しみなどを抱えるリスクも大きくなります。
長期に透析を続けられるのが、いいことなのか。不自然なことなのかは分かりませんが、長期透析患者の中には、透析で生き長らえることが苦しいと思う人がいるのも事実です。
長期透析患者とは、透析歴20年~30年の透析患者のことです。
さらに、透析歴40年以上の透析患者のことを、超長期透析患者と呼び、その数は透析患者全体の0.4%です。
(2022年のデータによると、透析歴40年以上の患者は、全体の0.4%にあたる約34万7474人のうち、1381人に相当します)
0.4%ということは、同じ年に100人が透析導入したとして、94人が亡くなり、生き残った人が残り4人に該当するということです。
長期に透析を受けていると身体にどのような影響がおきる?
長期に透析を受けていると、体のいろいろな箇所に影響がでます。
①心臓(心不全、不整脈、高血圧、虚血性心疾患)
②骨・関節(手根管症候群、透析関節症など)
③血管(動脈硬化症、ASO(閉塞性動脈硬化症))
④その他(低血圧、栄養障害)
などを発症するリスクが高まり、痛みや苦しみを避けては通れません。
心臓(心不全、不整脈、高血圧、虚血性心疾患)
心不全
透析患者の死亡原因の第 1 位は心不全です。
| 原因 | ・水分・塩分過剰 ・貧血(心臓の仕事量の増加) ・高血圧 ・冠動脈硬化(心臓の栄養血管の狭小化) ・心膜炎、 ・その他の心疾患 ・ブラッドアクセス(シャント) |
| 症状 | ・むくみ、息切れ、動悸 ・レントゲン写真で心胸郭比の拡大 ・臥床にて息苦しく、座位にて症状が軽快、 ・咳・喀痰、 ・おなかや胸の水の貯留(胸水・腹水) ・血圧上昇 |
| 予防 | ・水分・塩分の過剰摂取を避ける(塩分の取りすぎで喉が乾くと水分量が増加) ・貧血の予防と改善に努める、 ・血圧のコントロール、 ・動脈硬化の進行の予防のため過食を避け、適切な運動をする、 ・適正なドライウエイトの維持 |
| 治療 | ・透析による十分な除水、 ・酸素吸入、 ・シャント縫縮、 ・降圧剤などの服用、 ・冠動脈硬化症に対しカテーテル治療 |
常に体重の増えすぎで体液過剰、腎性貧血、シャントにより心不全状態になりやすくなります。
さらに、高血圧状態が続き血液量が増えると、これを送り出す心臓の筋肉は厚くなり(心肥大)、やがて疲れ果てて働きが落ち、心不全状態になります。
不整脈
不整脈とは、脈の乱れのことをいい、透析患者では徐脈性不整脈だけではなく、頻脈性の不整脈が発生しやすいです。
| 原因 | ・電解質 (カリウム、カルシウム、マグネシウム)の急激な変化、 ・体液量(水分・塩分)の変化、 ・自律神経障害、 ・ヘパリンなどの薬剤、 ・心肥大、 ・冠動脈硬化、 ・透析アミロイドーシス |
| 症状 | ・徐脈性不整脈では、息切れ・全身倦怠感など ・頻脈性不整脈では、動悸、心胸部不快感など |
| 予防 | ・喫煙、過労、不眠、ストレスなどを避ける、 ・透析間の体重増加を少なくする、 ・水分、塩分、カリウムをとりすぎない、 |
| 治療 | ・抗不整脈薬の服用、 ・徐脈性不整脈に対してはペースメーカー植え込み、 ・頻脈性不整脈に対しては、必要に応じカテーテルアブレーション |
高血圧症
高血圧は、動脈硬化、心不全、脳出血の原因となるため注意が必要です。
日本透析学会のガイドラインによれば、心機能低下がない安定した慢性維持透析患者さんでは、週初めの透析前血圧の目標値は 140/90mmHg 未満とされています。
| 原因 | ・水分・塩分の摂取過剰 ・過食・肥満による動脈硬化 ・ストレス、睡眠不足 |
| 症状 | 頭痛、肩こり、イライラ、吐き気、嘔吐、顔面紅潮 |
| 予防 | ・透析間の体重増加を抑える ・カロリーの取りすぎに注意する |
| 治療 | ・降圧剤の服用 |
虚血性心疾患
虚血性心疾患は、心筋における酸素需要と供給のバランスが崩れた状態です。
冠状動脈の硬化や貧血、透析中の血圧低下などは、酸素の運搬能を低下させます。
透析患者は、心筋における酸素の需要と供給のバランスを崩しやすい状況にあり、胸痛発作は透析中に出現することが多く、特に透析前の体重が最も増加した際に起こりやすい傾向にあります。
| 原因 | ・高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙 ・カルシウム、リン代謝異常(高カルシウム、高リン血症) ・その他(肥満,運動不足など) |
| 症状 | 前胸部の圧迫感や胸痛 |
| 予防 | ・血圧をコントロールする。(水分、塩分を制限する)、 ・適度の運動をする ・カルシウム、リンの管理、 ・ストレスをためない、 ・糖尿病患者では、血糖コントロール、 ・定期的な心電図検査、心エコー検査 |
| 治療 | ・薬物治療 ・必要であれば心臓カテーテル検査を行い、冠動脈狭窄の有無を評価し、狭窄していれば冠動脈血行再建術を考慮する |
シャントが心臓に負担がかかる理由は?
シャントは、動脈の血液を静脈に短絡(シャント)させることで、本来末梢組織に流れるべき血液が、心臓に戻る前に静脈に流れ込んでしまいます。これにより、心臓が余計な血液を循環させる必要があるため、負担が増えます。
骨・関節の障害
骨関節障害の合併頻度は透析期間が長期化するに伴い増加し,特に 30年以上で顕著です。
長期透析患者の中には、杖や車いすを使っている人も数人います。
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透析アミロイドーシス |
手根管症候群(CTS)
| 手根管症候群(CTS)とは? | 長期透析を受けている患者において、アミロイドが手根管(手首を通る神経の通り道)に沈着し、正中神経を圧迫して発症する症状です |
| 原因 | 透析アミロイドーシスと呼ばれる病態で、アミロイドというタンパク質が体内に蓄積し、手根管に沈着することで正中神経を圧迫する |
| 症状 | 初期には親指から薬指のしびれや痛み. 夜間や透析中に症状が強くなることが多い. 進行すると母指球筋の萎縮、握力の低下、ペットボトルのふたが開けにくくなる、ボタンが止めれない、小銭をつかめないなど細かい作業が難しくなり、日常生活に不便さを感じる |
| 診断 | ・しびれや痛みの部位、母指球筋の状態を確認. ・奥津テスト(手首を曲げてしびれをチェック)や、神経伝導速度検査などを行う |
| 治療 | ・手根管開放術(手根管を切開して神経の圧迫を取り除く手術)が一般的. ・再発予防には、β2ミクログロブリン吸着療法(リクセル)などが効果的. |
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破壊性脊椎関節症(DSA)
| 破壊性脊椎関節症とは?(DSA) | 長期透析患者に多く見られる脊椎の疾患で、背骨の骨組織にアミロイドが沈着し、骨や軟骨の破壊、椎骨の変形、神経圧迫を引き起こす病態です。特に頚椎に多く、首や肩、手足のしびれや痛み、麻痺などの症状が現れることがある |
| 原因 | 長期の透析により、アミロイドというタンパク質が脊椎や関節に蓄積し、骨を破壊して変形させる |
| 症状 | 頚椎:首の痛み、肩の痛み、手のしびれや痛み、麻痺 腰椎:腰痛、足のしびれや痛み、麻痺 |
| 診断 | X線検査で椎間腔の狭小化、椎体終板の破壊がみられる MRIで脊柱管狭窄や神経圧迫の程度を評価する |
| 治療 | ・安静、鎮痛薬、筋弛緩薬 ・神経圧迫が強い場合は、手術による除圧が必要になることもある ・副甲状腺ホルモン値が高い場合は、その管理も重要になる |
血管(動脈硬化、ASO)
動脈硬化
| 動脈硬化症とは? | 動脈の壁にコレステロールやカルシウムなどがたまって血管が細くなり、血液が通りにくくなった状態のこと |
| 透析患者の特徴 | 高血圧、高脂血症、カルシウム代謝異常などが重なり合い、動脈硬化を起こしやすい状態になっている |
| 狭心症と心筋梗塞 | 動脈硬化は、心臓に発生すると狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患につながる 狭心症:心臓に酸素や栄養を送る動脈(冠動脈)の一部が狭くなり、心筋の酸素不足をおこす病気 心筋梗塞:冠動脈が血の塊で詰まってしまい、そこから先に血液が流れなくなり、心臓の筋肉が死んでしまう病気を いずれも、緊急に治療を行わなければ生命に危険を及ぼす |
ASO(閉塞性動脈硬化症)
長期透析患者で、足の血管が詰まり、なかには足を切断するしかない人もいます。
| 病態 | 動脈硬化症により、四肢末梢の循環障害をきたす |
| 症状 | ・下肢の冷感、しびれ感、 ・間歇性跛行(歩行中に患部側の下肢に異常感覚と激痛・緊張感を覚え、歩きはじめると、歩行困難となるが、すこし休息すれば、 痛みは止まり、歩行可能となること) ・安静時疼痛、 ・皮膚潰瘍など |
| 診断 | 下肢と上肢の血圧の比を図 |
| 検査方法 | ・下肢と上肢の血圧の比を図る検査(ABI) ・サーモグラフィーによる皮膚表面温度の測定、 ・皮膚のレベルの微小灌流圧を測定する方法(SPP)、 ・超音波ドップラーによる血行動態の解析など |
| 治療方法 | ・保存的療法として禁煙指導や適度な運動指導、 ・薬物療法としては、抗血小板薬や血管を広げる内服薬や静脈注射剤の使用、 ・経皮的血管形成術(PTA)(バルーンで血管を拡張する方法) ・自己静脈や人工血管を用いたバイパス術 |
低血圧
長期透析患者の低血圧は、大きく以下の 2 種類に分けられます。
慢性低血圧
特徴・透析の時以外も、いつも血圧が低い状態(収縮期血圧が 110mmHg 以下になることが多い)
| 特徴 | ・長期の透析患者に多くみられる ・特に高齢者や女性、心機能が低下している人などに多い ・ふらつきやたちくらみなどの症状がみられることがある |
| 原因 | ・心臓から十分に血液が送り出せない心機能の低下による場合 ・自律神経などの障害により、血管の収縮反応が不十分となり血圧値を十分に保てない ・透析後のドライウェイトの設定が低すぎる(過除水)場合もある |
透析時低血圧
・体重増加量が過大のため時間当たりのの除水量が多くなり、透析中の血管内への体液の移行が間に合わずに血圧が低下する、
・自律神経の障害(とくに高齢者や糖尿病患者などに多い)のため、血管の収縮反応が不良となり血圧が低下する、
・降圧薬の影響、
・心機能の低下により透析にともなう血液の体外循環や除水、電解質変動などに十分に適応できない、
・その他の要因
栄養障害
長期透析患者では、しばしば栄養障害がみられる事があります。
栄養障害があると、様々な感染症に対しての抵抗力も低下し、感染しやすく、また重症化しやすい傾向があります。
栄養が足りていないと、血液検査の中で主要なたんぱく質であるアルブミンという数値が低くなったり(通常は 4g/dl 以上)、体力が低下しやすくなったり、貧血の改善も不良になりがちです。
透析患が栄養障害になる要因
・尿毒素の蓄積による食欲低下
・慢性微炎症状態
・多量の薬の服用による消化管障害
栄養障害改善の対策
①十分な透析量を確保する(透析不足にならないようにする)
②体調を整え食欲を改善する
②食事内容を見直す
食事の量を確保するだけでなく、偏食を避けて食事のたんぱく質、炭水化物(糖質)、脂質等のバランスを良くして、必要な栄養素をまんべんなく摂取する
研究:超長期透析患者の実態
今から10年前、2015年の研究ですから、現状とは少し違いがあるかもしれません。
透析技術は、日に日に進歩しており、昔はほとんどの長期透析患者が経験する手根管症候群や副甲状腺摘出術などの外科的手術を受ける人が、圧倒的に減りました。
≫透析技法の進歩で透析アミロイドーシスの発症を5年間遅延【β2MG除去率80%以上で新規手根管症候群手術が減少】
超長期透析患者の特徴
・透析40年で90%が死亡する状況を乗り越えてきた
・バスキュラーアクセス(シャント)の確保に苦労
・ ADL(日常生活動作)の低下
・手根管症候群,バネ指
・頚椎・腰椎での破壊性脊椎関節症
・脊椎管狭窄症
・透析関節症
などを高率に有する・心・末梢血管(動脈)合併症を多発
・自力での通院は不可能で何らかの介助を必要とする
・8 割が介護認定を受けていた.
・明らかな脳血管疾患や認知症は見られなかった
その「生存の質」はとても満足できるものではなかった.透析歴41年~46年の10名の超長期透析患者の実態を調査
・ESA(赤血球造血刺激因子製剤)は 9 例で投与され,b2 ミクログロブリン(b2-MG)吸着カラム(リクセル®)は 5 例で併用していた。
・全例が高機能膜(HPM)透析器を使用し,血清 b2MG濃度は 25 mg/L 以下にコントロールされていた。・CRPはやや高め 半数が0.5超え(0.03が正常)
・40年経過後の体重は減少
血管系合併症の有無(10名中)
| 有 | 無 | |
| 心疾患の有無 | 7人 | 3人 |
| PCI(心臓カテーテル治療) | 3人 | 7人 |
| 四肢末梢血管での閉塞性動脈硬化症(ASO) (診断がついてなくても、下肢のしびれや冷感の訴えが多かった) | 7人 | 3人 |
| 脳血管疾患 | 0人 | 10人 |
心臓や手足のの血管が痛んでいるなら、同様に脳の血管も痛んでいそうなのに、なぜか脳血管障害は見られなかった。
動脈合併症の病態背景には,内膜での粥状動脈硬化のみならず,中膜を中心とする血管壁石灰化が大いに関連している。
骨・関節疾患の合併と手術の実態(10名中)
| 有 | 無 | |
| 副甲状腺摘出術 | 4名 | 6名 |
| 手根管症候群 | 9名 | 1名 |
| 頸椎疾患 | 7名 | 3名 |
| 腰椎疾患 | 2名 | 8名 |
| 大腿骨疾患 | 4名 | 6名 |
| 他関節疾患 | 4名 | 6名 |
・破壊性脊椎間接症(DSA)は 6 例に,脊椎管狭窄症(SCS)は 7 例に認められた。
・「超長期透析」患者では手根管症候群(CTS),頚椎・腰椎での 破壊性脊椎間接症(DSA)や 脊椎管狭窄症(SCS)の発症頻度が際立って多かった。
その背景には,二次性副甲状腺機能亢進症があり,同時に「透析アミロイド症」や「透析関節症」が潜在することは疑いない。
日常生活の活動度の実態(10人中)
食事や着替えなどの日常生活に不便を感じるかなどの調査
・食事:指・手・上肢の関節拘縮により,箸の使用が困難
・洗面:腕が顔や頭まで十分に挙上できない
・更衣:四肢関節の可動域制限のために更衣に 1 時間を要する例や,ボタンの無い T シャツを多用する例,ズボンのウエスト部分にゴムを入れている例などがあった
結果的に 9 例が日常生活には車いすを必要とし,残り 1 例は杖歩行のレベルであった。
・「超長期透析」患者の ADL(日常生活動作)、生活形態は 8 割が「要介護 1~3」のレベルにあり,自力での通院はほとんど不可能な状況であった。
手段的自立度
| 出来る | 出来ない | |
| バスや電車を使ってひとりで外出できるか | 1名 | 9名 |
| 日用品の買い物ができるか | 2名 | 8名 |
| 自分で食事の用意ができるか | 2名 | 8名 |
| 銀行預金・郵便貯金の出し入れが自分でできるか | 4名 | 6名 |
≫超長期透析患者の実態
≫透析歴 30年以上の超長期血液透析患者における骨関節合併症の調査
まとめ
透析歴が40年を超えると、体の不調も多くなってきます。
不整脈などの心臓の不調、足や腰・背中の痛み、手根管の痛みやしびれなど、ほとんどの長期透析患者で何らかの問題を抱えていますが、その状態は人それぞれです。
透析をしていても、元気で長生きできることが理想ですが、やはり透析が長期になると、いろいろな体の不調がでてくるのも事実です。
でも、透析技術は日々進歩しているので、合併症の頻度を少なくしたり、発症時期を遅らせたりすることは可能だと思います。



